「春」の楽譜を読む


みんな知っている曲だが「さいたさいた」で覚えている人がおおいだろう、「春」である。
歌詞(1番)は次のとおり。
 さいた さいた チューリップの花が
 ならんだ ならんだ 赤白黄色
 どのはなみても きれいだな

この曲は単純3部形式で、AA’Bの形になっている。
メロディーには原理原則がある。それがこの曲でわかるのだが、それは
「3回目には発展させる」
ということ。

1小節目と2小節目は全く同じ。同じ旋律が続いた場合、発展したくなるのがフレーズの原理である。
4分音符-4分音符-2分音符 という流れは安定性が高いリズムで、それは2分音符-4分音符-4分音符のリズムと比べればよく分かる。
長い音符は短い音符より安定しているので、4-4-2より2-4-4の方が発展性がある。
ではなぜ曲の冒頭にこのリズムなのか? それは歌詞が「さいた」であり、文章の終わりであるから。でも終わりではないので、ドレミという上行形にして、終わらないようにしている。
2小節目が1小節目と同じなのは、歌詞によるもの。また2回同じことを続けることで、3回目の発展を期待させるためでもある。
3小節目は1~2小節目を受け、発展させないといけない小節。そこでドレミという順進行ではなく、ミからソという跳躍をする。また、リズムを替えて、4-4-4-4とし、発展性を持たせている。全体構成からいうと4小節でA部分が終わりであるが、次の4小節につなげるため、Aの最後はレで終わる。これは安定のあるドミソの和音で終わらず、不安定なソシレの和音を使うため。
ソシレの和音でフレーズを終わらせるのは、次のフレーズにつなげるのにある基本的な手法。
ここではもっと重要なことがある。「ファ」を使わないということである。
ヨナ抜きという言葉がある。これはドレミファソラシドに1から順に数字を当てて、1234567とする楽譜の書き方に基づいたもので、4と7の音を使わない曲のことをいう。日本語のひとつ、ふたつ・・・という呼び方の頭文字を使い、4(よっつ)と7(ななつ)の音を使わないのでヨナ抜き、という。4と7の音を使わないと、日本的な旋律になる、という特質がある。
「春」という曲はヨナ抜きである。ファとシを使わない。これで日本の曲らしくしているのだ。
ファを使えないので、ソの音をつかっているのである。
5~8小節目は1~4小節目を使い、最後だけドにして、フレーズの終了感をだしている。
ここで注意するべきは歌詞の「らん」である。
曲において、しかも童謡という単純な曲では、ひとつの音にひとつの文字が原則だと思うが、「らん」はひとつの音に対し、二つの文字を当てている。これができるのは「ん」は単独では音節を構成しないため、前のことばに付属するとみなせるから。
しかし実際に歌うときは「ら」と「ん」でそれぞれに8分音符を当てるであろう。
 分析とは関係ないが、フレーズ終わりの長い1つの音符に「せん」とか「かい」とか二つの文字を当てる曲があるが、私には違和感がある。
 曲としては8小節だけでも終わる感じがあるが、歌詞が終わらないため、続きがある。
1~8小節とは全く違ういきなりのソであり、「ソソミソ」という音の並びも突然である。
このままでは全く統一性がとれないので、リズムで統一性を持たせている。違いは9小節目の4拍目のみで、あとは同じリズムにしているため、似たリズム感覚を持たせることができている。
また9~10小節目は他の小節より音が高めになっている。これによりこの曲の山場が9~10小節目であることが分かる。また、曲中最も高い音は10小節目第1拍のラであり、この音がクライマックスである。これにより、前8小節にたいして半分しかない4小節であっても8小節に対抗しうる重要性を与えられている。最後の11~12小節は、クライマックスに達した後なので、あとは終わるだけであり、順次下がっていく。