本書が出版されたのは2015年1月。それが今年4月に文庫化された。同時にアマゾン電子書籍でも購入可能となった。そしてXなどで感想がかかれ、ちょっとしたブームになっている。エリザベス女王とのお茶会とか彬子女王が留学中の思い出をつづった手記である。自分としてはまああまり読まない類の本だと思う。
インターネット黎明期のブログという形態でのホームページが始まる前、個人がホームページで読み物を公開している時代があった。侍魂がとくに有名だろう。数多ある中で、宇治茶というペンネームで旅行記を書いている人がいた。今ではもう見つからない。その旅行記の中でイギリス旅行中、品の良い公園に迷い込み、言動の良くない二人の兄弟を注意したところ、彼らのおばあさんと思しき女性と会い、お茶を一緒にしたのだが、その二人の子供たちがおばあさんを「Her Majesty(陛下)」と言っていたので恐縮してた、という話があったのを思い出す。
ちょうど今年は陛下がイギリス訪問をされたのでこの本も合わせて文庫にしたのだろうと思うけど、20年前の話でも面白い。ネットで見ていない文章のなかで、次の文がなかなか気に入った。
チョコレートがとろけて、頭がきーんとなるくらい甘いクッキーを食べると、脳に栄養が行き渡り、「よし、また頑張ろう!」という気持ちになれた。
冷たいもので頭がキーン、と来るのはだれしも経験があると思うけど、甘いもので頭がキーン、とくるのはそうそうないと思う。自分はそんな経験は思い出せない。しかし将棋の対戦でおやつが話題になるように、頭を使うときには糖分が効く。苦しい思い出は記憶から抜けていくのでこの旅行記の中に苦しい思い出というのはあまりないのだけど、このエピソードは留学での苦しみの一旦が現れていると思う。
ひとつ、女王殿下ならではと思う気になる点を。殿下が父親である寛仁親王について書かれるとき、必ず敬語でかかれること。通常の敬語表現として外の人に対して内の人のことについては敬語を使わない。社内で上司に対して敬語は使うけど、社外で上司の言動について敬語は使わない。それでも女王殿下は父親については必ず敬語を使う。ここまで徹底して父親に対して敬語を使っているのが驚きであり、感心するところでもあった。