音楽での修辞法

古楽の演奏に手を出すと、修辞学について知りたくなります。
バッハが良く研究されていて顕著なのだと思いますが、バッハに限らず、当時の音楽には修辞法を使った曲作りが成されていて、演奏するに当たり、楽譜のこの音形はいったいどういった意味があるのだろうか? という疑問に応えてくれるのが修辞法です。

これは私が昔から音楽で感じている疑問に答えてくれるひとつのものです。たとえば曲の終わりに「レシド」で終わるのか「レレド」で終わるのか、「レソド」で終わるのか。「シ」も「レ」も「ソ」も同じ和音の構成音で、コード的には同じ意味でしょう。しかし明らかにこれらの終わり方には違いがある。
修辞法は完全な答えを教えてくれるものではなく、ひとつの考え方を示すものですが、非常に説得力を持った演奏する方法論となります。
どういう音形がどういった意味を持つのか、どういった和声が慟哭を表すのか、といった様々なことがフィグールとして存在しているのです。
このフィグールのまとめたものが欲しいのですけど、日本にはないようです。
この間参加した古楽カフェでも音楽修辞学を学ぼう、という気運が高まりましたが、フィグール集が出てくれればとても欲しいです。

ある程度まとまったものが実は日本にもありまして、それが有田正弘氏のムラマツ公開講座を映像化したソフトで、10巻まであります。これの9巻と10巻には付録でフィグールをまとめているので、古楽に興味のある人は必見かと思います。

しかし、聞く人はフィグールを知っているとは限らないわけで、それでも聞く人に何かしらの説得性とかがあるわけです。それはなぜか? フィグールでまとめられているものは本質的に、感覚的な領域で知っていることだからです。
たとえば音が上昇すると高揚感が増すし、突然の休止は驚きを表す、など。
こういったことは個々人の感性による部分なので正解はないのですが、文章に残っていれば、共通の認識として安心しますからね。